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【地球のしごと大学 レポート】土中環境の再生が地球を救う

2022-09-29

環境を再生する匠

今回講義いただいたのは、一般社団法人環境土木研究所代表、NPO法人地球守代表理事でいらっしゃる、高田宏臣(たかだ    ひろおみ)先生です。

高田さんは、日本の各地域で古来から行われてきた、環境土木の技を生かして、土壌や山、川を再生していくスペシャリストです。お題が自然環境、工事なので、なかなかZoomで講義するには難しいテーマだと思うのですが、事前に受講生から寄せられた質問にも答えるべく、150ページ近く!の写真や講義資料を準備いただき、1つ1つ工法のやりかたや「なぜそうなのか」という背景を丁寧に解説いただきました。

お題:川岸近くに造成された住宅地で、川側の崖が崩れてきた! どうする!?

土地の持ち主の方は、デベロッパー経由で購入した新しい土地に貸別荘を建ててビジネスをしたいという方。買った土地でいきなりがけ崩れが始まったら・・・すごいびっくりしますよね。。。
当初自治体に相談して、行政側も一般工法でコンクリートで崖面を固める方法を提示したということなのですが、土地の用途が貸別荘なのでやはり景観の問題などもあり、高田さんのところに相談が舞い込んだそうです。

一般工法は、皆さんよくご存じの、山肌とか崖とかをコンクリートで固めていく工法です。

一方、環境工法を使って高田さんはこの問題をどう解いたのか!?

使ったのは、木の杭(周りを火で焼いたもの)、石、木の枝、植栽、でした。(え、それだけ!?)

コンクリートや鉄鋼、重機をつかって大規模な施工をおこない、力で抑え込む護岸工事が行われるようになったのは、せいぜいこの数十年。日本にはその前から自然の材料、人力で土地を安定化させていく知恵があるということなのですが、その方法は

  • がけ下の崩れた部分に、焼いた丸太で杭を打つ
  • 丸太で枠組みを組み、石や枝のしがらみ(編み込む)で崖下から斜面を固定していく
  • がけ周辺の川底にもくい打ちとしがらみをおこない、川底から湧き出る水の流れをつくっていく
  • 植栽を植える

丸太の杭を斜面下や川底に打つことで、雨が土壌の中にしみこみ、しみこんだ水が土の中を流れて川底から湧き出す水の道がつくられます。
しがらんだ枝はなかなか取れないため、大きな施工なしでもがけ下の土壌を安定化することができます。
こうしてできた斜面止めの上に、植栽をほどこし、土壌の水分を保つことで、崖崩れの防止ができるということです。

すごいな、使っているものはその辺のものなのに、使う人次第でがけ崩れも防止できるなんて。

水が循環し、ポンプのように動く

高田さんが教えてくれたのは、水が循環することの重要性です。

表面を流れる川の水の何十倍もの量の水が、山や川の下の土壌中、伏流水となってため込まれているとのこと。

山、木、河、目に見えない伏流水はおおきな水の流れでつながっていて、循環しています。

  • 土壌が多くの水を吸い込み、土壌の菌根菌が水を浄化する
  • 土壌に吸い込まれた水を木(とくに高い木)がポンプのようにくみ上げる
  • 浄化された水が地下の伏流水が河に湧き出すー>地表の水が地下の伏流水に戻っていく

循環がうまくいっている環境では、土中で菌根菌が育ち、たくさんの水が地下に吸い込まれて、豊富な水で森が育ち、浄化された水が川底から湧き出して清流となって流れていきます。
針葉樹、広葉樹など木の種類が多いほうが菌根菌の種類も増えて良いそうです。

逆に、水の流れや土壌を無理にせき止めようとして、コンクリートのU字溝、コンクリートの護岸、砂防ダムなどで土を覆うと、水の循環ができなくなります

  • 土が乾く、もろくなった土が崩れてくる
  • 木(とくに深く根を張る高い木)が育てなくなる、木がなくなることでよりがけ崩れなどが起きやすくなる
  • 施工場所が地下の水脈をふさぐと、行き場のなくなった水が出口を求めて、工事をした周辺でがけ崩れが出る、泥水が出るなど周辺の災害が拡大する

などのいろんな弊害が起こってきて、それを解決するための施工が被害を拡大していくという悪循環が始まります・・・

また、一般工法では重量物でむりやり崖の土壌や水を止めているため、

  • 施行箇所が老朽化すると、圧力に耐えられなくなり一気に崩れ落ちてくる(50年ほどで崩れ落ちてくるパターンが多いそうです)

という被害も実際にでているとのこと。
人間の安全のための工事が逆効果になるなんて、世知辛いです。。。

重量物を動かす重機もなかった時代だからこそ、人力で身近な方法で土壌を安定化させていく知恵があったと高田先生はおっしゃってました。

高田先生の著作やとりくみなど

よくわかる土中環境

2022年8月にでたばかりのご著作です。

熱海の土石流についての分析、水の循環や土壌環境についてのの知識、実際に庭や山の手入れですぐ使える方法など、たくさん紹介されています。

イラストと写真が多いので、(私のように)「なかなか山にはいかないんです。畑もやったことありません」という人でも良く理解できます!

NPO 地球守

高田先生が代表務めてらっしゃる、地球守のホームページでも、水循環や環境再生のための取り組みについてのコラム、今日から使える身近な環境再生の方法についての動画コンテンツなどがあります。メールマガジン登録しておくと、セミナーやワークショップの案内もいただけるということなので、ぜひぜひお試しください!

本日も最後まで読んでいただきどうもありがとうございました! Have a nice and eco Day!

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