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【地球のしごと大学レポート】#13 自然栽培と固定種・在来種 ~命を繋ぐ根源的活動とは~

2023-02-01

今回は、2022年11月下旬に 岡本よりたか 先生に講義いただきました、『自然農法と固定種・在来種 』のご講義からサマリーをお届けします。

岡本よりたか 先生は、自然農法の第一人者。自然と寄り添う循環型の農法を広める活動や、シーズバンクによる固定種、在来種の保護活動もされています。

まったくもって農業と無縁に暮らしてきたため、が私たちの生きるすべを握っているのね、と初めての気づきがあり、
なんとなくわかっているようで、わかっていなかった 遺伝子組換種、ゲノム編集 についても、仕組みやリスクをきちんと理解できました!

人生いろいろ、種もいろいろ

まずは、作物を育てる上で不可欠な 『 種 』の基本から。種にも色々な種類があることを教えていただきました。

1.交配種

昔から人間行ってきた、人為的に品種を掛け合わせて新しい種を作る方法

一見すると、今年掛け合わせたら、来年は新しい品種になるんじゃない?とも思いますが、


A)おいしいけど病気に弱い種

B)病気には強いけどいまいちおいしくない種

の2つから、C)おいしくて、びょうきに強い種 にするためには、A-Bの子供をBと掛け合わせて、みたいな作業を何世代も繰り返す必要があるそう。。。そのため、新品種が作れるまでに10年かかるというのもざら。

2. 固定種

タネ屋さんの野口勲さんが使ったことで広まってきた、種屋用語。らしい
ほかの種と交雑して品種が変わってしまわないように、種屋さんが閉ざされた空間で育成してつないできた種。

風に乗ってきた花粉で意図しない受粉をしちゃったりしないように、各品種を育てる畑を分ける(とくにアブラナ科などは要注意)

花の咲く時期には覆いをかけて花粉の混入を防いだり、

とタフな作業を経て作られているんだそうです。ほー。

3.在来種

農家さんが作物を育て、種取をしながら今日までつないできた種

種屋さんほど厳密な管理はしないことが多いので、交配している種であることもある。その土地で長年自然淘汰を生き抜いているので、土地の気候や土壌、病気に強く育てやすい & おいしい種になっている。

4.F1(えふわん)種

交配種の一種ですが、 F1 と言われる種は、互いに遠い形質をもった種を掛け合わせて、第一世代が親の良い形質だけをもつようにしたもの。
顕性の法則(ちょっと昔に理科で習った人は ”メンデルの法則” )を活用した種です。

良いところ

通常の交配種では、大きさやおいしさ、病害虫への強さなどがばらけますが、F1の場合は第一世代の子供はすべて同じ形質になるため
ー同じくらいの大きさ
-同じくらいの味

のお野菜ができます。

そのため、「お店で単一価格で売りやすい」「POSデータの扱いが楽」「(小さいものや形がいびつなものなどの)売れ残り、ロスが出にくい」といったメリットがあり、八百屋さん、スーパーなどで広く出回っています。
また農家としても、農協に卸すときの規格に合った作物を、収量を確保しながら生産できます。

リスク
  • 単一のウイルスなどで全滅する可能性もある
    遺伝子や形質がばらけている交配種は、どれかが生き残る可能性が高いですが、単一のF1種は全滅するリスクも出てきます。
  • 雄性不稔性 の問題
    自家受粉をする植物の場合、受粉をコントロールするために、ミトコンドリア異常で雄しべのできない突然変異種 (雄性不稔性 の種)を利用しています。
    他の生物のミトコンドリアを食べても、食物の消化の過程で分解されるため影響はないといわれていますが、リスクがあるという人もいます。
  • 種をとってもしょうがないから、種を取らない農家が増える
    顕性の形質がでるのは、F1の種をまいて育つ第一世代のみで、第一世代の種をとってまいた第二世代では形質がバラバラになってきます。
    そのため「売れない野菜をつくってもしょうがない」「種をとってもしょうがない」ということで、農家の方が流通する種に依存せざるを得ないというリスクもあります。

5.遺伝子組み換え種

遺伝子工学の発達で、90年ごろから生産されるようになった種。人為的に他の生物のゲノムを組み込んで、特定の形質をもった種を作成します。
GMO(Genetically Modified Organism)とも呼ばれます。

例えば、遺伝子組み換えトウモロコシの場合は、
除草剤耐性(除草剤をかけられても枯れない) 形質をもつ大腸菌由来の遺伝子
殺虫性(とうもろこしを食べた虫の消化管が壊される) 形質をもつ遺伝子
をトウモロコシのDNAに組み込むことで、『草取りの手間がいらず、害虫につよい』トウモロコシになっています。

良いところ

  • 除草剤に強いので、除草剤をかけたらまわりの雑草だけ枯れて、除草にかける手間が省ける
  • 殺虫剤を蒔かなくてもよくなる

ため、手間をかけず、収量を確保しやすくなります。

リスク
  • 健康被害
    除草剤がかかったまま育つので残存農薬が増えたり、殺虫の形質をもつことで作物の毒性があがったりします。マウスなどの実験や臨床データから健康への影響が疑われています
  • 知的所有権
    遺伝子組み換え技術は特許対象とされており、開発に多くの資金が櫃王となることから、遺伝子組換種の多くは多国籍企業が種の知的所有権を持っています
    そのため、農家は次期作に利用する種の採取、新しい品種改良に使うことができず、企業への依存度が高まります。
  • 貧富の差
    作物の売上の一部が次期作に使う種を購入することで、継続的に多国籍企業にながれるしくみです。また、遺伝子組換で収量が増えると値崩れが起き経済的に豊かでなかった農民がさらに経済難になるという問題も指摘されています。
  • 意図しない結果
    他の生物のゲノムを組み込む種です。また狙った場所や数で組み込めない可能性もあるため、意図しない形質の変化が起きる可能性があります
  • 在来種への影響
    トウモロコシなど、花粉の飛びやすい作物では、遺伝子組換トウモロコシの花粉が隣の 遺伝子組換でない トウモロコシに飛んで行ってしまい Non GMOと表示できなくなる
    などなど、周りの在来種への影響・問題も上げられています。

6.ゲノム編集作物

発現させたくない特定の遺伝子部分のDNAを切除することで作成した種。 遺伝子組換ではないため、GMOとは表示されません。

GABAを多く含んで血圧を下げるトマト、の例。

トマトにはもともとGABAという成分が含まれますが、一定量が造られるとGABAの成分はつくられないようストッパーが働きます。

そのストッパー部分のDNA部分を切断してすると、ストッパーの機能がはたらかないため、通常よりもGABA成分が多いトマトが作れます。

良いところ
  • 遺伝子組み換えにくらべ、生物がもともと持っているDNAの一部を切断する処理で、かつ、狙った場所での変異が起きる可能性も高いことから、遺伝子組み換えよりも安全性が高いといわれています

リスク

  • 知的所有権
    ゲノム編集も特許対象のため、遺伝子組み換えの場合と同じく、種の取得を企業に依存せざるを得なくなるリスクがあります。
  • オフターゲット変異による意図しない結果
    DNAを切断する酵素が狙った表劇配列とは別の部分を変異させるリスクはゼロではありません。生物の体内でも日々遺伝子損傷は起きておりそれを修復する機能を備えていますが、修復がうまくされない場合は、意図しない形質の変化が起きる可能性があります。

4.F1種、5.遺伝子組換種、6.ゲノム編集作物 などはどれも効率的にまた売りやすい作物を育てるために作られてきた方法ですが、一方で種を供給する企業への依存や、種によっては健康への影響も懸念されるようになってきました。

また日本では、2022年4月に改正法が試行されている 種苗法で、次期作のための種取も禁止となり(他の農家への転売・譲渡、国外持ち出しは改正前から禁止)、ますます農家が種をとって、作物を作る自給自足の農業ができなくなってきているという状況もあります。

『種』の権利を守り、自給できる農業

種を供給する企業に依存せず、自分たちでこれまで受け継がれてきた 固定種、在来種を育てつづけるために、岡本先生が提唱・リードされている活動はこちらです!

  • シードバンクの活動に参加する
    岡本先生と全国各地のみなさんが、在来種、固有種の種を保管、交換するためのシードバンク「たねのがっこうを運営されています。
    借りた種を育てて、種を採取して返却する、「種の更新」作業は大きい種では3年、小さい種では5年ごとに必要となるとのこと。
    プロの農家の方に限らず、家庭菜園や、ベランダ菜園の個人でも、参加することができますので、栽培に自身のある方はぜひご参加ください。
  • 在来種、固有種の種取りをしながら、自分で食べるものは自分で作る
    「たねのがっこう」ではシードバンクだけでなく、種をつかって自給自足できる 自給農を目指す人のための講座もたくさん開催されています!
    また学校以外でも、「やさいづくりを始める人」や「家庭菜園をする人を応援したい」ということで、年間150回を超える講演をしていらっしゃいます。
  • 改良品種を作る
    種苗法の改正後、次期作のための種取は禁止されていますが、登録品種をつかった品種改良や改良した種の種取は禁止されていません。
    登録品種からの改良品種を作り、その種を使った農業をすることで流通する種に頼ることなく作物を作ることができます(ゲノム編集、遺伝子組み換えなどの特許対象の作物は除く)


岡本よりたか先生が提唱しているのは 「横の循環、縦の循環を生かした自然農法」です。

  • の循環(山の落ち葉が分解されたミネラルが河や伏流水を通してめぐる循環)
  • の循環(植物と菌根菌・細菌との共生を通じて、植物がミネラルを吸収し育つ循環)
  • コンパニオンプランツ など生物間のつながり・共生を生かした栽培

を大事に無肥料で作物を育てています。

自然農を目指方のために、先生がくれたアドバイスが非常に印象的だったので、最後に抜粋しますね。

農法ジプシーにならない

何か農法を学んで、うまくいかないと違う農法を試してみる・・・の繰り返しだといつまでたってもうまくいかない。自分の経験でもうまくいき始めたのは、農法の本を全部処分してからだった。
植物は何もしなくても成長し、実をつけ、次の世代に命をつなごうと生きている。”人間が植物の邪魔をしないことを考えるー>推測するー>実験する” が一番早道

よりたか農法はない

たねのがっこうで教えているのは、土壌生物や植物生理学、土壌細菌学など自然の仕組みを理解することだけ。
上手くいった栽培方法も、土地や条件が違えばうまくいかないこともある。仕組みを理解して実践する。

人間は土を作れない

「土づくりにどれくらいの期間がかかりますか?」という質問への回答(だったと思います)。
土は植物を分解する土壌生物や微生物の働きで、自然の循環のなかでできている。人間はそれに手を貸しているだけで、自分で一から土を作ることなんてできない。

日本は『わら一本の革命』が生まれた国

海外では自然農法が広く取り入れられ、米国でも穀物の栽培で不耕起農業をするのは、あたりまえになってきている。
福岡正信 先生の 『わら一本の革命』は海外で自然農法をで作物を育てる人のバイブルになった。発祥地の日本でこそもっともっと広がっていってほしい。

感想


農業は「人間が土を耕し、土を作って、作物を植えて、育てているもの」と講義前には考えていましたが、実際には人間ができることはごくわずか。「自然の恵みでできた土壌で、育つ作物の手助けをし、その恵みをいただいている」のだと教えていただけた講義でした。
また、農業に携わったことのない私でも、ロジカルで本当にわかりやすく 種 や 農法 についての知識を伝えていただき、参加者からのたくさんの質問にも答えていただけて、理解が深まったと思います。

「種」を守ることは、自律的に生きる権利を守ること。農業や種の保全を超えた、大きな大きなテーマですね!

~ ご参考情報 ~

岡本よりたか先生

講座を聞いたちょうど翌週に、カーボンフットプリント関連でたまたまお会いした人から
「よりたか先生ってすごい有名ですよ!私もたくさん本持ってます。直接話聞けたんですか!いいなぁ。」
とうらやましがられました。自然農法、有機農法の世界で有名な先生です (とその時初めて気づくという・・・)。

今回テーマになった「種」について、参考文献やもっと詳細を知りたい!という方には、こちらの『種はだれのものか』 のご著作がおススメです。
電子版はなさそうなので、単行本か古本でぜひ。